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東京高等裁判所 昭和22年(ラ)24号 決定 1949年2月17日

国籍

住所

東京都杉並区天沼一丁目二九四番地

抗告人

大野幾男(代理人 梶谷丈夫)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件再抗告の理由は末尾添付の別紙書面記載の通りである。

まず管轄権につき按ずるに、台湾はポツダム宣言によつて、我国の領土でないことに定められている。ところが記録第一七丁編綴の証明願末尾の記載によれば、台湾製糖株式会社は台湾高雄州屏東市竹園町六十番地に本店を有しているのであるから、右会社が日本商法に準拠して設立されたものであること及びその株主の過半数が日本人であることは、記録第三四丁編綴の調査嘱託書回答で明であるが、内国会社ではなく民事訴訟法第四条第三項に所謂「外国の社団」に準ずべきものと解するのを相当とするから、同項を準用してその普通裁判籍は、日本に於ける事務所の所在地を管轄する裁判所がこれを有するものというべきである。然るに前記調査嘱託書回答によれば、東京都渋谷区代々木西原町九百二十一番地に右会社の東京出張所が存すること明であるから、本件申立当時に於ては、民事訴訟法第一七九条第一七六条第二項により右東京出張所所在地を管轄する東京区裁判所(現在に於ては改正せられた右法条により渋谷簡易裁判所)が、右会社の株券に関する公示催告の申立につき管轄権を有していたものといわねばならぬ。

よつて進んで本件公示催告の申立が昭和二十年大蔵省令第八十八号により大蔵大臣の許可を要する行為であるかどうかを按ずるに台湾は昭和二十年勅令第五七八号金、銀又は白金の地金又は合金の輸入の制限又は禁止に関する件の第五条により、同令及び外国為替管理法の適用については、外国とせられる地域である。然るに本件株券が台湾に本店を有する台湾製糖株式会社により発行されたものであることは、該決定に於て確定されたところであるから本件株券は前記大蔵省令第四条第四号に当る在外財産であり、又従つて同令第二条第一号に該当するから、同条により大蔵大臣の許可を得るのでなければ、これに関する取引を為すことが出来ない。ところで同令第三条に「本令に於て取引とは一切の財産の売買取得、譲渡、支払、持出、処分(原状変更を含む)輸出若は輸入一切の財産の商取引又は一切の財産に関する権利、権限若は特権の行使を謂う」と定めているが、公示催告それ自体は右に云う処分(原状変更を含む)とは云えないし、又右に云う権利の行使でもなくその他右条文の規定するいずれにも該当しないと解するのが相当である。しかし公示催告は除権判決を予想して為されるものであつてこれと結びつけて一連のものと考えるのでなければ全く意味がない。それ故公示催告それ自体は前記のように取引に該当していなくとも、これに続く除権判決が取引に該当するときには、右行為につき大蔵大臣の許可がなければ、公示催告の申立を許容すべきではないと解するのを相当とする。よつて更に審究するに、除権判決は当該株券の正当な取得者があつたとしても、公示催告期間内に届出を為さないときは、当該株券の無効を宣言し、これについての権利を失わせるものであるから、除権判決によつて株券に関する権利者に変更を来す可能性がある。然らば除権判決をすることは前記条文に云う処分(原状変更を含む)に該当するものと解さなければならぬ。果して叙上のようだとすれば、株券に関する公示催告の申立を為すには爾後の公示催告手続を進めることにつき、大蔵大臣の許可を得ている必要があるから本件公示の催告の申立について大蔵大臣の許可が必要であると解した原審の見解は正当であつて、抗告人の論旨はこれを採用することが出来ない。よつて本件抗告を棄却すべきものとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のように決定する。

(裁判官 斎藤直一 内田初太郎 新見俊介)

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